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心中的記憶

に顔を見合って

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に顔を見合って


「それはまだいえない。でもそのことについて二、三日うちに、きみの家へいっておとうさんやおかあさんとも、よくご相談するからね」
 まったくふしぎな話である。けさから起こったこのできごとが、文彦には夢のようにしか思えなかった。えたいの知れない渦のなかにまきこまれて、グルグル回りをしているような、または、なにかに酔ったような気持ちなのだ同珍王賜豪
 文彦と老紳士は、しばらくだまって、たがいいたが、そのときだった。この家のうらあたりで、なんともいえない一種異様な、それこそ、ひとか、けもの[#「けもの」に傍点]かわからぬような叫び声が、一声高く聞こえてきたかと思うと、やがてろうかをドタバタと、こちらのほうへ近づく足音。
 文彦と老紳士は、スワとばかりに立ちあがったが、そこへころげるようにはいってきたのは……ああ、なんという奇妙な人物だろうか。
 背の高さは二メートルちかく、まるで拳闘の選手のような、ガッチリとしたからだを、医者の着るような、白衣でつつんでいるのだが、その顔ときたらサルにそっくり。西洋の土人のように髪がちぢれて、ひたいがせまく、鼻が平べったく、しかも、おお、その声。……なにかいおうとするのだが、あわてているのか、あがっているのか、人間ともけものともわからぬ声で、ただ、ワアワアと叫びつづけるばかりなのだ。
 文彦はあっけにとられて、そのようすをながめていたが、それに気がついた老紳士は、相手をたしなめるように手腳冰冷  、
「これ、|牛《うし》|丸《まる》、どうしたものじゃ。お客さまがびっくりしていらっしゃるじゃないか。文彦くん、かんにんしてやってください。こいつは口がきけなくてな。もっともふだんは|読唇術《どくしんじゅつ》で、話もできるのだが、きょうはよっぽどあわてているらしい。牛丸、おちつきなさい」
 老紳士にたしなめられて、牛丸青年もいくらかおちつき、手まねをまじえて、なにやら話をしていたが、それを聞くと老紳士の顔が、とつぜん、キッとかわった。
「な、な、なんだって? それじゃまたダイヤのキングが……」
「おう、おう、おう……」
「よし、案内しろ」
 老人はよろめく足をふみしめながら、牛丸青年のあとからついていく。文彦はちょっとためらっていたが、思いきってあとからついていった。
 洋館のうしろはしばふの庭になっていて、そのしばふの中央に太いスギの古木がそびえている。そのスギの木のそばに、香代子がまっさおになって立っていた。
 牛丸青年にみちびかれるままに、老人はよろよろと、スギの木のそばへ近づいていったが一目その幹を見ると、アッと叫んで立ちすくんでしまった。
 スギの幹のちょうど目の高さあたりに、みょうなものが五寸くぎで、グサリと突きさしてあるのである。それはトランプのダイヤのキングだった。
「アッ、こ、これはいけない!」
 ヘビにみこまれたカエルのように、しばらく、身動きもせずに、あのあやしいダイヤのキングを見つめていた老紳士は、とつぜん、そう叫んでとびあがった。そして、そのひょうしに文彦のすがたを見つけると、
「アッ、文彦くん、きみもここへきていたのか。いけない、いけない。きみはこんなところへきちゃいけないのだ!」
 そう叫んで文彦の手をとる住宅設計と、
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