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心中的記憶

ら見破ること

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ら見破ること


 最近は、アマゾンというと、無秩序な森林伐採などの環境破壊に警鐘を鳴らす記事ばかりになりがちで、読者も少々食傷気味だが、『バーズ アイ』の視点は、ひと味違っていた。誌面からは、急速に失われつつある大自然の驚異を少しで水腫も記録しておこうという、熱い使命感のようなものが伝わってくる。高梨のメールでは、好き勝手なことをしている変人集団という印象しかなかったが、実際には、それぞれの別働隊が、きちんと自分の仕事をこなしていたらしい。あまり目にしたことのない絶滅寸前の稀少《きしよう》動物の姿や、一瞬の野性のひらめきをとらえた写真なども、昔日の『ライフ』を髣髴《ほうふつ》とさせる迫力だった。
 肝心の、高梨が書いた紀行文の方は、彼の文章をずっと読んでいる早苗の目からすると、可もなく不可もないという出来映えだった。
 一般にはあまり知られていない昆虫などの生態を、人間社会になぞらえた皮肉なユーモアを交えて巧みに紹介している。それでいて、文化系の住宅設計作家にありがちな過度の擬人化に陥ることなく、科学的正確さを心がけているところは、特に体系的な自然科学の素養があるわけでもないのにと感心させられた。
 高梨は、いったいいつ、これを書いたのだろう。
 文章自体はまともで、死恐怖症《タナトフオビア》は言うに及ばず、妄想、幻聴などの異常体験を匂《にお》わせるようなところも、いっさいなかった。プロの作家だから、そうしたものをうまく隠して書くことも可能だろうが、早苗には、高梨の文章なができるという自信があった。
 高梨は、集中して書けば筆は早い方だったから、帰国してすぐの、比較的精神が安定していた時期に書き貯めていたのかもしれない。
 そう思うと、最近の高梨の様子がわからないだけに、少し心配になった。
 先日の深夜の一件以来、まだ、喧嘩《けんか》別れのような状態が持続している。高梨から何度か電話はあったが、彼女は、しばらく頭を冷やしNespressoましょうと提案し、二週間が過ぎていた。ここのところ、連絡は途絶えている。
 早苗は、『バーズ アイ』誌を買って、帰りの電車の中で熟読した。
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