「うまくいくといいですわね」
「ききめはある。だからこそ、しばられ地蔵が評判なんだ」
「だけど、ぐずぐずしていると、お地蔵さ
鑽石能量水 消委會まの力の及ばないところへ逃げてしまうかも」
「そう心配することはない。だれか、わたしの家へ行って、|下野《しもつけ》日光山の、走り大黒さまのおふだを持ってきてくれ……」
やがて、それがとどく。かすれたような印刷で、立った人物が描かれている。ふつう大黒といえばすわっているが、これはその立った姿らしい。吉兵衛は言う。
「これを壁に、こういうぐあいに、さかさまにはる。そして、この足の部分にだ……」
と針を突きさした。このまじないによって、犯人は逃げられなくなるのだ。女は聞く。
「これで大丈夫なんですか」
「そうだ。ききめがなければ、お上がこんなものの発行を許しているはずがない。さて、わたしは本所のしばられ地蔵まで行ってくるよ」
「お手数をおかけします」
「なに、長屋のことは、わたし
中醫針灸の問題でもあるのだ」
吉兵衛は散歩がてらと、ぶらぶら歩く。途中、はっと気がつく。悪い方角にむかっている。わたしとしたことが。時間はかかるが、まわり道をしなければならない。きょうは、このことでつぶれそうだ。もっとも、ほかに急ぎの用もなく、あわてることはなかった。
いったい、世の中になぜごたごたが絶えないのだろう。時の流れによって、三元九星が循環する。それによって、善悪吉凶が発生している。そう本に書いてある。立派な本に書いてあるのだ。だから、真理にちがいない。
わたしはその指示にさからわない。家屋の修理、着物の着ぞめ、病気の全快祝い、みな吉日を選んでいる。おかげで、まあ大過なく今日まですごせてきた。
しかし、世の中には、まだ悪がつきない。九星にさからう連中が多いからだろうか。さっきもだれかがたが、走り大黒の足に針をさすことで逃亡をとめられるのなら、悪人はみなつかまってしかるべきだ。火災防止のおふだも、多くの家にはってある。それなのに、依然
として火事は絶えない。
なぜだろう。吉兵衛もふと疑問をいだいた。みなの信心のたりないせいだろうか。あるいは、九星の理屈だけでは律しきれないためかもしれない。世の中、しだいに複雑になってきてるからな。
それをおぎなうためだろう。昔のえらい人たちの知恵によって、さまざまなご神体が作られ、信仰がなされている。
だが、まだなにか不足のようだ。もっとずっと強く的確な、お寺なり神社なりが作られていいはずだ。何十年か何百年あとには、そんなことになるのだろうな。みながそこに祈れば、犯罪や火事や不幸が、この世からなくなってしまうといった……。
早くそんな時代になってほしい。しかし、それまでは、いまの信心を守るしかない。手をこまねいていたのでは、事態は
鑽石能量水 消委會少しもよくならない。現状のなかで、せい一杯の努力をする。それが、まともな生き方というのではなかろうか……。
地蔵さまにつく。そばに小さな店があり、ナワと札とを売っていた。それを買い、吉兵衛は札に自分の名前を書く。その石の地蔵は、ナワで何重にもしばられていた。いろんな人が願をかけにくるようだ。吉兵衛もナワをかけ、ねがいをとなえた。本心からだ。長屋の秩序が乱れ
ては困る。